「自分でできるから大丈夫」— 自立心と支援のバランスを考える

今日は、入居を検討されている方の事前調査に行ってきました。

ご本人は軽度の認知症がありますが、日常生活の多くのことは自分でこなすことができ、介護サービスを受けることに抵抗感を持たれています。お話の中でも 「介護を受けるようになったらおしまいだ」 という言葉が印象的でした。

一方で、現状の生活にはいくつかの課題も見られました。

  • 薬の飲み忘れがある ため、服薬管理が難しくなっていること
  • 一軒家の階段の上り下りが負担 になっており、転倒のリスクがあること
  • 夜間などに不安を感じると、頻繁に娘様を呼び出してしまう こと

娘様としては、こうした状況を踏まえ、「施設に入ってもらったほうが安心だし、通いやすい場所なので支えやすい」 という思いがありますが、ご本人は入居を拒否されているため、どう進めるべきかを慎重に考える必要があります。


1. 入居の判断をどうすべきか?

このように、ご本人とご家族の意見が食い違うケース は少なくありません。
入居の判断にあたっては、以下のポイントを整理することが大切です。

① ご本人の自立心を尊重する

  • 認知症が軽度の場合、本人の 「できること」 を尊重し、無理に入居を進めないことも大切です。
  • 「介護を受けることはおしまいだ」という思いは、「まだ自分で頑張れる」という自尊心 の表れでもあります。

② 生活の安全性を重視する

  • 一方で、 「今後も安全に暮らせるか?」 という視点も重要です。
  • 特に 階段の上り下り や 服薬の管理 は、転倒や体調悪化につながるリスクがあります。

③ ご家族の負担も考慮する

  • 娘様の負担が大きくなりすぎると、共倒れ になってしまうこともあります。
  • 「家族が無理なく支えられる環境」 を作ることも、入居を検討する理由の一つになります。

◎ 判断のポイント:

  • 現状の生活にどれだけリスクがあるか を整理し、施設入居の必要性を確認する。
  • 入居によってご本人が 「できることを奪われた」と感じないようにする工夫 も大切。

2. 事前調査での確認事項

事前調査では、以下のポイントを確認しました。

  • 身体状況: 階段の上り下りや移動にどの程度の負担があるか
  • 認知機能: 物忘れの頻度や理解力、判断力の程度
  • 服薬管理: 薬を飲み忘れた場合の影響や、現在のサポート状況
  • 生活リズム: 夜間に不安を感じやすいか、頻繁な呼び出しの状況
  • 本人の希望: 施設への抵抗感や、自立したいという思いの強さ

この情報をもとに、ご本人が施設でどのような生活を送れるかを具体的に考える ことが重要です。


3. 入所判定会議での確認事項

入所判定会議では、以下の点を重点的に確認します。

① ご本人の意思と生活の安全性のバランス

  • 「できることを続けられる環境」 を提供しつつ、「必要な支援を受けられる安心感」 をどう両立するかを検討します。

② 施設で対応できる支援と対応できない支援の整理

  • 服薬管理や入浴、排泄などの日常生活の介助 はどこまで対応できるかを確認します。

③ ご家族の負担軽減

  • 入居によって娘様がどの程度負担を軽減できるかを整理し、「家族が無理なく支えられる生活」 を目指します。

4. 入居後の対応と「帰宅願望」への対処法

入居後、ご本人が 「やっぱり家に帰りたい」 と感じることも少なくありません。
特に、認知症の方は新しい環境に慣れるまで時間がかかることがあります。

① 帰宅願望に対する対応

  • ご本人が 「なぜ帰りたいのか?」 を丁寧に聞くことが大切です。
    • 「家が恋しい」 → 家族との面会や外出を増やして気持ちを和らげる
    • 「ここでの生活が不安だ」 → 職員が寄り添い、不安を軽減する声かけを行う
  • 無理に引き止めるのではなく、「今の生活の良さ」 を自然に伝えることが大切です。

② 日常生活での「できること」を尊重する

  • 「介護を受けるのはおしまいだ」という気持ちを尊重し、本人ができることは自分で続けてもらう。
    • 例えば、自分で着替えや洗顔をする、食事の配膳を手伝う、施設内の活動に参加する など。
  • 「できることがある」という実感を持つことで、自信を失わずに生活できるようにサポートする。

③ 家族との関わりを大切にする

  • 娘様との連絡や面会の機会を増やし、「家族に見守られている」という安心感 を持ってもらう。
  • 必要に応じて、「一時帰宅」 を検討し、帰宅願望を満たしつつ施設での生活に戻れるようにする。

5. ご家族への説明のポイント

娘様に対しては、以下のように説明すると理解を得やすくなります。

  • 「ご本人の気持ちを尊重しつつ、安全に暮らせる環境を整えたい」 という方針を伝える
  • 入居後の生活では、「できることは自分で続けていただく」 ことで、自尊心を保ちながら生活できることを説明する
  • 帰宅願望が強くなった場合も、ご本人の気持ちに寄り添いながら、家族と協力して対応する ことを伝える

まとめ

今回のケースでは、「自分でできることを続けたい」というご本人の思い と、「安全に生活してほしい」というご家族の願い をどう両立するかが鍵になります。

  • ご本人の自立心を尊重しつつ、必要な支援を提供する ことで、安心して生活できる環境を整える
  • 入居後も「できること」は自分で続ける ことで、自尊心を保ちながら新しい生活に慣れていけるようにする
  • 帰宅願望が出た場合は、気持ちに寄り添いながら対応 し、ご本人が施設での生活に安心感を持てるようにサポートする

これからも、ご本人とご家族がそれぞれにとって 「無理なく、安心できる暮らし」 を実現できるよう、丁寧なサポートを心掛けていきます。